Touch Barはダメだったよ。でもTaptic Engineなら奴を救えるかもしれない。

Touch Bar搭載の15インチMacBook Proを会社で使い始めてそろそろ1ヶ月。はっきり言ってこれは失敗作だと思う。

Touch Barとは

Touch Barは2016年に発表されたMacBook Proに搭載されている、物理キーボード上のファンクションキーの列を代替するタッチパネル式入力デバイス。スティーブ・ジョブズが物理キーボードが主流だった時代に「アプリによって必要としているボタンはそれぞれ違う」と力説しながらフルタッチパネル式のiPhoneを発表したのが既に10年前の話なわけだが、その思想をMacに輸入してきた格好となるのがこのTouch Barといった感じ。アプリによって表示されるボタンが変わり、それぞれ最適なインターフェースで操作が可能になるというものだ。……でもそれは本当に最適なんだろうか。

なお、現行のラインアップとしては13インチMacBook ProはTouch Barあり・USB-Cポートx4のモデルと、性能を落としたTouch Bar無し(従来のファンクションキー)・USB-Cポートx2のモデルから選ぶ事ができる。15インチMacBook ProにはTouch Bar搭載モデルのみラインナップされている。つまり、高性能な13インチモデル、あるいは15インチモデルを購入する場合はTouch Barが必須。噂レベルではTouch Bar無しモデルのラインナップの拡充が囁かれているが、現時点では実質的にTouch Barを避ける方法はUSB-C端子が半分に削られたスペックダウンモデルを買うしかなく、多くのパワーユーザーはTouch Bar搭載モデルを買う事を強いられる状態となっている。

アプリによるカスタマイズ

幸いTouch Barにはサードパーティのユーティリティを常駐させることができ、いくつかのソフトがリリースされている。例えばBetterTouchToolはトラックパッドを始めとするMacの入力装置カスタマイズする代表的なアプリで、Touch Bar搭載されたMacBook Proがリリースされた際にはいち早くTouch Barへの対応を発表したアプリのひとつである。BetterTouchToolを使えば好きなアプリ・機能・操作などをランチャーのようにTouch Barに登録しておくことができる。これにより、アプリ側が対応していなくともBetterTouchToolで独自にボタンをカスタマイズして使うといった事が可能になる。Touch Bar搭載のMacを持っている方には是非おすすめしたいアプリである。

Touch Barで選べる3つの選択肢

システム環境設定からTouch Barに与える事のできる機能は以下の3通りである。

  1. Appコントロール+Control Strip(+サードパーティのユーティリティ)
  2. Control Strip(サードパーティのユーティリティ利用不可
  3. Appコントロール(サードパーティのユーティリティ利用不可

そしてfnキーを押す事でF1〜F12キーを表示させる、Appコントロールを表示させる、Control Stripを展開させるの3通りの機能を割り振る事ができる。なお2と3に関しては何故かサードパーティのユーティリティを設定する事ができない。つまり、全ての設定にデメリットがある。

  1. 画面の明るさ・ボリューム一つ変えるだけでもControl Stripの展開と言うワンアクションが必要。サードパーティのアプリは便利だがescキーを定位置に置いておけない。
  2. Appコントロールとファンクションキーが二者択一である。ワンタップで明るさ・ボリュームなどが設定できる代わりに、Touch Bar特有のApp Control機能(Safariでタブのサムネイルを表示するなど)を失うか、ファンクションキーを失うか、どちらか選ばなくてはいけない。サードパーティのアプリは使えない。
  3. 常時App Controlが表示され、Control Stripあるいはファンクションキーどちらかをfnで表示させる設定があるが、二者択一である。ファンクションキーを使いたい場合、画面の明るさひとつ調整できない。サードパーティのアプリは使えない。

どの設定も致命的なデメリットが生じる。2と3の場合、BetterTouchToolを捨てる事になる。そしてTouch Barには「ファンクションキーを常時表示させる」という設定が無い。例外的に特定のアプリではファンクションキーを表示するという設定はあるのだが、ファンクションキーは日本語IMEの一部と言っても過言ではない。文字入力をする限りシステムを通してどのアプリでも使う。全体設定があっても良いものではあるのだが。

ゴリ押しの暫定的解決方法

実はTouch Bar搭載MacBookシリーズには「F1、F2などのファンクションキーを常時表示し、fnキーで他の機能を呼び出す」というパワーユーザーには理想的な設定が用意されている。が、これは実はシステム全体で適用する事ができない。アプリごとに設定が必要だ。1個1個手動で登録する事もできるのだがインストールされているアプリを全て手作業で登録するのは面倒。そこでTouchSwitcherというTouch Bar向けランチャーアプリの設定を使い、システム環境設定をオーバーライドし全てのアプリを一括で登録する事で「ほぼ全てのアプリでファンクションキーを有効化する」事 ができた。ほぼ、というのは、このファンクションキーを常時表示させる機能はFinderでは利用できないからだ。つまり現時点では、Finderでファンクションキーを常時表示させる事はできない。ターミナルからコマンドラインで設定する方法を見たような気がするが、少なくとも設定項目としては用意されていない。

現時点ではescキーが最大の不満点

ファンクションキーをそれほど多用するかと言われれば実はそこまで多用しているわけではないし、ファンクションキーに未来永劫こだわるべきとも思ってはいないのだが、今回のTouch Barに関しては正直褒められたものではないと思っている。確かに理論としてF1、F2、F3と名無しの多用途キーが12個も並んでいるのはレガシーな文化を引きずっていると思うし、ソフトウェアによって具体的な機能をキーに表示するという発想自体には共感できる。実際使っていても画面の明度調整のスライダーは物理キーでステップ操作するより快適に感じる。

ただ、個人的にescキーだけはこのセットに入れてほしくなかった。F1〜F12キーと違いescキーは明確な役割が与えられており、左上に常駐するに十分な理由がある。タッチタイピングを日常的に行うパワーユーザーにとってはAndroidで言う戻るボタンぐらい重要と言っても過言ではない。それをフィードバックの存在しないタッチパネルの片隅に置かれてしまうのは、今回のTouch Bar議論において最も大きな問題なのではないかと思っている。また、BetterTouchToolなどのサードパーティのアプリケーションを常時表示させる運用をすると、escキーが定位置から消えてしまう。代替のescキーをランチャーの左端に置く事はできるが、いきなり長年慣れ親しんだescキーがF1キーの定位置に居たり居なかったりするのは大変不安だ。

実際仕事で使っているMacBook Proに慣れた後でプライベートの12インチMacBookを触ると、escがそこにあるという安心感が半端無い。我々は今までescキーと共に生きてきて、いきなり取り上げられる事を快く思っていないのだ。

物理フィードバックの欠如したTouch Bar

AndroidはAndroid 4.0を境にオンスクリーンキーでの戻るボタンを採用したが、Touch Barとの違いは2点ある。1点目は、Touch Barは物理フィードバックが無いこと。Androidはオンスクリーンキーの戻る・ホーム・タスクボタンを押した際、バイブレータによる物理フィードバックが得られる。これによってユーザーはボタンを押したことが明確に分かる。2点目は、スマートフォンは視線がオンスクリーンキーを含む画面に向いているが、ノートパソコンを操作する際はメインのディスプレイに視線が向いているため、キーボードは注視していない。そのため、画面上に視覚的なフィードバックがあったとしても、ユーザーは気づきにくい。AppleのTouch Barは触覚フィードバック、視覚フィードバック、2点ともにAndroidに劣ったUXを提供しているというわけだ。

Androidと言えば今月Galaxy S8が発売となるが、今回サムスンはGalaxy Sシリーズとしては初のオンスクリーンキーを採用している。今まで頑なに物理的なホームボタンに固執してきたサムスンが今回オンスクリーンキーの採用に踏み切ったのは、ずばり触覚フィードバックが鍵なのではないかと踏んでいる。Galaxy S8のホームボタンは単なるオンスクリーンキーではなく、iPhone 7のホームボタンのように、感圧の触覚フィードバックが搭載されている。実際は平たい板をタッチしているのに、クリック感のあるボタンを押したかのように感じる繊細なフィードバックが、物理ボタンを置き換えるに足りる製品レベルまで仕上がったという事だろう。

サムスンも重要視している触覚フィードバックだが、そもそもAppleはこの分野において先行していたはずだ。MacBookにはTaptic Engineを搭載した感圧トラックパッドが搭載され、一枚のガラスの板を押しているだけなのに、高度に制御されたモーターがあたかも従来式のトラックパッドのようなクリック感を見事に再現している。精度こそは落ちるがiPhoneの3D touchにもこの技術は応用され、Apple Watchはスマートウォッチ史上最も繊細なノックするような触覚フィードバックで通知してくれる。iPhone 7では更に触覚フィードバックが強化され、ホームボタンも触覚フィードバックによる感圧式に変わり、画面の中のUIに関してもダイアルを回すとクリック感で境目を触覚的に感じる事ができるなど、加速度的に進化を重ねる触覚インターフェースはAppleの近年の十八番だったはず。何故Touch Barだけ、何のフィードバックも無い「ただのサブディスプレイ」として世に送り出されてしまったのか、不思議でならない。

Taptic EngineはTouch Barの救世主になり得る

アプリによって必要なボタンは違う。今までのファンクションキーは名無しのボタン。名前を付けて拡張性を持たせるべき。この理論自体は肯定する。でも実装が良くない。世間のエンジニアはiPadのオンスクリーンキーでプログラミングするだろうか?しないだろう。物理フィードバックの無いインターフェースが生産活動に向いていないのは今の世界を見ていれば明白だ。iPadでプログラミングできないのに、iPadと同じ、フィードバックの無いタッチパネルをプロフェッショナル向けのMacのラインナップに強要するのはおかしな話だ。

でもTaptic Engineを上手くTouch Barに融合させれば、話は別かもしれない。今のMacBookのラインナップを見ると、12インチMacBookも、MacBook Proも、全てTaptic Engineによってソフトウェア制御されたトラックパッドで従来のトラックパッドを完全に置き換えている。広義で言えば、マウスを物理フィードバックデバイスによって置き換える事に成功している。既にAppleはこの分野で成功例を一つ出しているのだ。もしTaptic EngineでTouch Barに物理的なフィードバックを宿す事ができれば、ブラインドタッチするデバイスとしてのUXは大幅に改善されるに違いない。特にApple自身のトラックパッドのように、完全に物理的なデバイスの触感を再現するほどにブラッシュアップされた高いレベルであれば、それはマジョリティを置き換えるデバイスに化けてもおかしくないだろう。

そこまで行く事ができれば、iPad上のオンスクリーンキーボードですら、今の物理的なキーボードの触感を再現するに近い体感を得られる日も近いだろう。iPhone 6s発売以来iPadに3D Touchが来る日はまだかと首を長くして待っているが、完成すればiPadはモバイルコンピューティングの体験を変えそうな気がしている。プロトタイプは作ってるだろうなぁ。出てこないのは練度の問題だろうか。

Touch Bar無しモデルのMacBook Proの発売が噂されているが、僕としては後戻りするぐらいなら早くTaptic Engine搭載Touch Barを積んだMacBook Proが早く出てきてほしい。絶対良いから。コストや実装面積の問題はあるだろうけども、Appleならやってくれるだろう。きっと。

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